ラジオ音階練習
「みなさん、おはようございます。今日は、静岡県御殿場市からお届けしています。さあ、今日も元気に、まずは長調から始めましょう!」
朝6時30分。NHKのアナウンサーがエネルギッシュに登場する。
その声に押されるように、ラッパを取ってマウスピースをはめる。
「1、2、1・2・3・・・」
”ド〜レミファソラシドー”と御殿場のどこかの小学校の校庭で朝からいろんな楽器で音階を吹き鳴らす音が飛び込んでくる。ぐっとくる。朝一番の一発目はいつもひどい。
「さあ、もう一度、」
二発目もまだひどい。ただ慣れてきたのかひどさが軽減される。そしていつものリズムセクションが動き出す。一瞬出だしがフラッとするが、すぐに立て直して、ようやくまともな音が流れてくる。
「それでは、早速今日も始めましょう。リピートアフターミー。」
アナウンサーがクラリネットで簡単なフレーズを2小説分吹く。続けて2小説をみんなでピーヒャラやる。そんな調子で3分ばかりやる。これが結構長い。だいたいなんでクラリネットなんだ。
「みなさん、調子は出てきましたか?それではここで、チェンジ!」
と、リズムセクションが転調させる。
「さて、今日の世界の音階は、フィリピンのサガダに古くから伝わるもので、現在でも結婚式などのお祝いでは村を上げての演奏で一晩踊り明かすそうです・・・」
突然の不思議な音階にずっこける、世界の音階コーナー。
アナウンサーがうんちくを披露している間にラッパのつばを抜いたりコーヒーを沸かしたりしていると、急に世界が近くなる。リズムセクションが長調に転調したのだ。
「さあ、次は今日の音階です。今日の音階を選んでくれるのは、」
と地元の小学校の吹奏楽クラブの生徒が紹介され、今日の音階の発表を促され、
「Fドリアン」
とつぶやく。みんなで眉間にしわをよせながら、ドリアンのリピートアフターミー。
楽器の演奏がうまくなるだけでなく、国民の心の健康を維持するラジオ音階練習。
98%は冗談だけど、2%はまじめにいいと思うが、どうだろう。