本を作る

「クリフォードブラウンが好き」そういうと決まって聞き返された「じゃトランペットやってるの?」を思い出す。この、”趣味は音楽鑑賞”と双璧をなすのが”趣味は読書”であるが、「本が好き」と言って「じゃ書いてるの?」と言われる事はまずないだろう。ましてや「じゃ作ってるの?」と言われる事はない。

読書にまつわる誤解を私なりにここで一つ解いておこうと思うのだが、あなたは本を買うとき、1,700円のハードカバーの新宿鮫を買うとき、それはコンテンツを買っているのではなく、紙とそこに印刷されたインクのパターン、それらが綴じられた束、そして全体を覆うカバー、そういう物理的な本を買っているのだ。うそだと思ったらその横にある本を取ってみて、値段を見てみたらいい。1,900円?コンテンツはくだらない?そう、でも紙がいい。村上春樹の「象の消滅」のあの黄色い本と似た肌触りのいい紙だ。そうして見ると、本の物理的な量と質で値段が決まっている事に気がつくだろう。そう。あなたは「紙」を買っている。つまり読書とは、本との戯れなのだ。

まず読書をそのように再定義した上で考えてみると、明和電機の社長が「自分のブログを手作りで本にしてみた」の中で、次のようなことを言っていることがますますよくわかる。

持ってみると、さすがに一年分の記憶は重い!これはパソコンの画面では体験できない充実感ですな。紙の本の長所は、やっぱり情報を重さで体験できることです。そしてそれは安心とか、満足とか、自信とかを与えてくれる。単純なことだけど、大切なこと。

本棚に並べてみれば、こういう言葉がもれる。

できた本を本棚に並べてみた。なんたる充実感!!みなさんもお試しあれ!!

私も繰り返しましょう。”みなさんもお試しあれ”と。そしてひとたび経験したら、「じゃ作ってるの?」と、趣味は読書の方に聞き返す自分を発見するでしょう。

近い将来、地元のブロガー本と出会い、戯れることのできる場所が生まれることでしょう。かつてそこは、図書館、と呼ばれていた場所として。