現代人のトランペット練習法

雑誌を読んでいたら、「自然の中で腹式呼吸」というのが、ストレス対策に有効だという記事に引っかかった。

「スケールの大きい音を出すにはスケールの大きな場所で練習すべし」というマイルスの教え(ビデオのインタビューでどうしてあなたはいい音がでるのか聞かれて答えていた)を実践すべく広い公園を練習場所に選んでいる私にとっては、マイルスの教えの奥深さにまで思いを馳せてみたのだ。

その記事は、「メンタルヘルスマネジメントの第一人者、渡辺卓氏が現代人のストレスとの向き合い方を考える」というもので、その対策として挙げられた4つのうちの一つが「自然の中で腹式呼吸」だった。

そこで”腹式呼吸 ストレス”で検索してみると、大体どれも次のようなことを言っている。

  1. 現代人の呼吸は浅い
  2. 脳の活動には酸素が必要
  3. やる気(ストレス)と休息のバランス維持
  4. 深呼吸はリラックスさせる脳波を出す

1番についてはトランペットを初めてすぐに私が実感したことだった。満員電車やオフィスでは、いかに呼吸が浅いことか。最近深呼吸したことがあったかを思い出してもらうだけで、どれだけそういう機会が少ないかがよく分かると思う。

こうして考えると、トランペットというのは、より深く休息させてくれるので、その分より大きなやる気が出せる(ストレスに耐える)ことにつながると言えます。(本当は音楽自体が、休息とストレスの連続したものだと言うことができる)

こうした効果でマイルスの教えを拡大解釈した場合、どのようなトランペット練習法がよいでしょうか。

私が一番効果的だと思うのは、好きなアーティストのしびれる音をイメージして、ロングトーンをじっくりやることです。トランペットは続けられるかということが最初の段階をクリアするのに最も大きな障害になると思います。そういう時でも、ゆったりとした呼吸で音を出すという行為で、結果として出てくる音はひどくても、ものすごいリラックスできます。晴れた日はぜひ公園にでも出かけてください。これだけでやみつきになります。

音程やコントロールについては別にしっかり練習しなくてはいけませんが、どんなに細かいフレーズでも跳躍でも”一つの息の流れ”にのせるということは変わらないそうですから、まずはそうした息の流れを集中して練習するというのは、技術面だけでなく精神面でもいいと思います。

逆に息の流れがないうちからコントロールをやりだすと、口先だけの音になり、たどり着く先は知れていますし、いつも難しい顔をして演奏するようになってしまったら元も子もありませんから。

もし息の流れとロングトーンができてきたら、今度はそこに音階を乗せましょう。息の流れが少し早くなると音程が上がっていくイメージです(アーバンで高い音ほど大きな音でというのと同じ)。幸い、私たちは誰でもある程度ドレミファソラシドの音感を持っていますから、こうして息の流れと音の関係を学びながら、同時に音程の正確性についても把握できるようになります。

そうして音階ができるようになったら、その音階の練習曲に挑戦します。

(ちなみにロングトーンや音階の基礎練習はどこまでいっても100点にはならないので、クリフォードブラウンでもマイルスデイビスでも、こうした基礎には日々取り組んでいたと思います)


自然の中でゆっくり深呼吸しながら、”一つの息の流れ”を意識してトランペットを吹く。技術的にはもちろん、精神的にも効果のある練習方法で、現代人には最適ではないでしょうか。