になると、ラッパも冬眠から目を覚ます。寒くておしくらまんじゅうをしていた原子たちが、踊りだす。どこからとなくやってきた春のリズムにつられ、ラッパの原子が踊りだし、木々、葉っぱたち、枝にとまる鳥も一緒になって春のリズムを作る。そして、そこを吹き抜ける風が、変化をつけにやってくる。

春になると桜が満開になるのではなく、桜が満開になるから春が来る。同じように、ラッパがよく鳴るから春が来たことを知る。

そして桜が散り、春とすれ違うと、遠くに次の季節の姿が見えてくる。


この短い春に見え隠れするラッパの秘密をこっそり話そう。


あまりによく鳴る私の師匠と空間を共有すると、体の一部にラッパを押し付けさえすれば音が出そうである。ただ想像して欲しい、例えばへそにマウスピースを当て、ラッパを両手で支え、演奏する姿を。まるで立小便である。そのゆえに、たぶん単にみっともないという理由で、あたかも吹いているような格好で演奏することになったのだ。