パタゴニア - ひきがえる -
バリローチェで食料などを補給して一泊し、そこから北へと向かう。
往路で4度受けた検問もなく、西行き、国境方面へと向かう車両だけ警戒しているようだった。
久しぶりにゆっくりできると日が昇ってから目を覚まし、バリローチェ市内のキャンプ場でシャワーをあびたりだらだらしていたので、結局出発は日中になってしまった。
ひとまずの目的地は、サンマーチン・デ・ロス・アンデス。たかだか百数十キロである。
そして私の楽観的な観測は、30分と経たないうちに打ち落とされた。まるで大恐慌。
これまで私が走ってきたのは、国内で最も整備が行き届いている幹線道路だったのだ。
途中のどんな交差点でもいい、曲がってみさえすればどうなっていたか分かったのだ。
私が曲がったのは県道63号線。未舗装道路である。
渓流を左に見ながら、北上する。これじゃ、まるでテレビで見たラリー選手権だと思う。
野生の牛はいるし、道路の中央に巨大な陥没があって、そいつはずっと先で完全に右側を押しつぶし、結局バックで戻らなければならなかったり、突然道路に川が流れていたり、一台でもギリギリの場所が続いたりした。
急な坂を1速で登っていくと、開けた場所に出た。
どなたか現地の方が、どうやら車のない時代のようだが、ここで力尽きて亡くなったようで、お墓があった。写真と赤いリボンと、質素なやつだ。
ひとまずバナナを食べた。そして写真を撮った。
さて、少し考える必要がある。平均すると、時速30キロそこそこじゃないか。これじゃ到着が3時を過ぎてしまう。そこから探索に出なければならないことを考えると、少しでも早く到着したい。
こんな道路、夜走るのはごめんだ。
そして今度は、こういう道路の危険性を思い知る。
今回の私の車では、見通しのいい直線で100キロぐらいは出しても大丈夫だった。しかし、60キロを超えるぐらいから、タイヤがスリップしているのが分かった。
前方で土煙が上がっている。対向車が来たようだ。少し右へよろうとハンドルを切る。車が大きくスリップする。
体勢を立て直そうとハンドルを逆に切る。反応がないので大きく切る。そして突然一気に車体がそっちを向く。
これはいかんと思い、ハンドルをまっすぐにする。
たまたま広い道路でよかった。あれほどハンドルが利かなくなるとは予想していなかった。
雨の日は、絶対に避けるべきだ。
Lago EspejoとLago Espejo Chicoの間にある名もない小さな湖。そこを私のねぐらにした。途中道に迷ったり、なんだかんだで結局もう19時過ぎだった。
ラッパを吹く気力はない。寝るだけだ。
ところで、夜中になるとわけのわからない鳴き声に混じり、「ササッ」、「ササッ」と何かがテントの周りを動き回っている。
そう、彼らはひきがえるだった。テントの周りを埋め尽くすひきがえる。そこに「キーッツ」というあの鳥が鳴く。カメラは上空にずーっと引いていき、私は眠りに落ちた。
ところで、Logo Espejoとは、鏡の湖の意である。