パタゴニア - 出発 -

時差が12時間、つまり日本がお昼ならそこでは夜中の12時になる都市がある。日本と時差がない都市と、時差が12時間になる都市は、ほぼ一直線上に並び、ぐるりと地球を一周する。

その円を取り出し、東京が一番上になるように置く。

3時の位置にあるのは、カナダの東端にあるニューファンドランド島。そこからアマゾン川河口に位置し、ほぼ赤道上にあたるブラジルの港町ベレンを通って、マラドーナでおなじみのアルゼンチンの首都、ブエノスアイレス付近で6時になる。

9時を過ぎたところにオーストラリア第二の都市メルボルンがある。

こうして見ると、結構寂しい線だなと思う。12時から3時、6時から9時はほとんど何もない。

12時付近の日本、16時から18時まで広がる南米、そして9時付近のオーストラリアだけだ。


そして今回行ってきたのは、この何もない線上で最も遠い6時付近。さらにその中で最も何も無いというパタゴニアだ。


パタゴニアというのは、”サラリーマン、”みたいな総称のことで、何か一つのものを指すわけではない。しかし”サラリーマン”が一つのイメージを共有するように、パタゴニアもイメージを共有する。圧倒的な、口答えすることを許さない超ワイルドな自然だ。

今回選んだのは、ブエノスアイレスから南西へ1700キロ、チリとの国境付近にある、サンカルロス・デ・バリローチェが代表する湖水地域だ。


早朝5時、友人が徹夜で作成してくれた給油ポイントと走行ルートを確認し、カーナビに登録する。衛星電話とキャンプ用品を確認し、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにある友人宅を出発したのは6時だった。

ブエノスアイレスの運転マナーは世界で最悪だよ。だから出発するならラッシュにつかまらないよう、6時までに出発した方がいい。」

ここブエノスアイレスに到着してから市内を半日走り、一体ここの運転ルールはどうなっているのか分からなくなっていたので、アドバイスに従ったのだ。


寝坊すけの太陽がのっそり顔を出した頃、料金所を通過し、ハイウェイを抜けた。まだ90キロ弱、片道の5%に過ぎない。それでもひとまずいくつか連絡を済ませ、りんごを食べた。

そこから現れたのは、延々と続く直線と牧場だった。