北極星の終わり

db4o2011-12-29

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The accidental universe:Science's crisis of faith
の中で物理学者であり作家でもあるAlanは、ある大胆な主張をここでしている。

紀元前5世紀の哲学者デモクリトスに始まり、私たちは人間の周りで起こるあらゆる現象を、科学によって自然法則に基づく当然の結果(necessary consequences of the fundamental laws of nature)と説明してきた。または、あらゆる現象は何らかの法則によって説明可能であると信じてきた。

ところが、この北極星のように明らかで揺るぎのなかった目標が、いよいよ終わりを告げよう(This long and appealing trend may be coming to an end)としているというのだ。

それではどうなるのかというと、あのアインシュタインの言葉「神はサイコロを振らない」と真っ向から対立する、単なる「宇宙のサイコロ(a random throw of the cosmic dice)」でしかないという。

そしてこの考え方は、今年もっと広い範囲で見受けられた。

例えば3.11の大震災。「なぜ東京電力はしっかり対策をとってこなかったのか?」「福島原発は人災だった」「いつも後手に回る政府」これらは全て、原因と法則さえ考えておけば、全て対処可能だと言う前提で考えられた発言だ。だからできることをやっていない、つまり怠けていたということを言っている。

もう一つは欧州を中心とした国債不安による金融危機だ。高名な経済学者達の理論によって説明されてきた景気の変動、もっと言うと政府が景気を操作できるという考え方は、今回の金融危機では原因も分からなければ対策も分からないというとんでもない事態になり、最早信じろという人さえいなくなった感がある。

そしてどちらも、神の意志を探して動けなくなった人たちを尻目に、「宇宙のサイコロ」を受け入れ、何が出てもやれることをやろうと動き出す人たちの力で動き始めた。それは企業や個人のボランティアであり、資金調達については特にアメリカのKickstarterなどのクラウドファンディングがそうだ。

ここにあるのは、できないことは無理にやらない、できることやうまく行ったことをもっとうまく行くようにするという価値の転換である。

違う言い方をすると、百の文句や非難より、一つの協力ということかもしれない。

実はこの価値の転換は、私がシリコンバレーベンチャー(startup)企業と一緒に働いていた時に教わったものだ。ゴールを設定し、できないことを一つでもできるようにするというような日本的価値観でいた私は、チームを鼓舞することもあるが、文句や非難によってマイナスの効果をもたらすことも少なくなかった。そしてひどかったのは、それがあるべき姿だと信じて(知らずに)いたことだった。

果たしてそんなことは単なる例のコップの話、「半分しか水が入っていないコップ」か「半分も水が入っているコップ」のように、話のための話に過ぎないのか?そもそも高いゴールや理想からスタートしないのは怠けているだけじゃないのか?などなど当時はいろいろ考えたものだった。

そしてそれから数年かかって、ようやくそれを克服できたとき分かったのは、非常に不確実な状況下では、うまく行ったこと(既成事実として理由は何であれ)にリソースを集中することが、あるべき姿(理想だけで何ら事実を踏まえていない)にリソースを集中するよりもはるかに効率が良いということだった。


それでは結果として出来上がるものが何になるか分からないじゃないか、とか、あきらめずに一つのことを追いかけるから物事は達成できるんだ、といった反論もあると思います。実際そうした反論はもっともで、あくまでもこれは「非常に不確実な状況下では」という前提つきです。

しかしながら、ひょっとすると、こうして従来の考え方が広く通用しなくなってきたということは、「非常に不確実な状況下では」というのが最早特殊な状況ではなく、日常として誰もが捉えて物事を考えるようにした方がいいのかもしれないということなんです。

それは、小田嶋隆氏が「ネットでものを書くということ」の中で言っている、”「分からない」というスタンス”がますます求められるようになるということであり、そうした従来の考えや物理的な制約(紙で印刷する場合)から見ると、随分だらだらしたしたように見える文章こそ、来年以降さらにウェブ上で活躍するのではないでしょうか。

さて、もう北極星が頼れないとしたら、あなたならどう進みますか?


写真はサイコロを使ったギャンブルから偶然に潜む確率を研究したと言われるイタリア人数学者、ジェロラモ・カルダーノ